作品概説
● 日本画との出会い
大学を受験しようとして絵の勉強をしていたころ、上村松園と上村松篁の展覧会が時を同じくして、京都高島屋と京都市美術館で開催されていました。そのとき初めて近現代日本画、いわゆる狭義の日本画というカテゴリーを認識しました。
それまで日本画についての知識はほとんどなく、仏画や大和絵、水墨画に狩野派や琳派、はたまた浮世絵などといった江戸期までの古典的絵画のことをさしているものと思っていましたが、その二つの展覧会を見て、目から鱗が取れる思いでした。
今から思えば、彼らの絵はちょうど、古典と現代日本画の境界線のようなところに位置づけられるような絵画で、西洋から伝わった油絵の手法を巧みに取り入れながら、日本人が長年に渡って培ってきた美意識と日本画の絵の具の美しさを最大限に発揮して描かれた極めて画期的な物だったのです。西洋画に対抗して日本の伝統的手法を用いて描かれた絵に日本画ということばが名づけられ、広く使われるようになったのは、江戸末期といわれ、彼らの時代は、その潮流の真っ只中にあったのでした。
それをきっかけに近現代日本画に魅せられ、それまで油絵を勉強しようとしていたのをあっさり転向して日本画を学び始めました。
以来、古今東西多くの作品に触れ多くのものを学びましたが、今も最初の出会いの感動は鮮やかに残ります。
● 表現に対する考え方
そうして先達の偉業に大いに感動して描き始めた日本画でしたが、今自分が描こうとする物は、必ずしも先達と同じ題材を選んでいるわけではありません。生きる時代が違うのですから、生活環境も違えば、価値観も変わって当然と思われます。時代を経た人々が、それぞれに違った感性で、ものを見つめるとき、その感覚を表現すれば千差万別のものになるはずです。
そして、個人の画家であっても、そしてその個人が同じ事象に出会ったとしても、そこから見出されるものは、それまでの経験と知識の積み重ねによって異なるといえます。いつどのような状況のときに、その事象と出会ったのかによっても、それに感動するか否か、その感動を表現したいと感じるかどうか、または表現するとして、どういった形の表現になるのかといったに違いが生じるでしょう。
そう信じて、いつのまにか20年近く制作をつづけているわけですが、その時々の情報や刺激により得た感情の動きなどをできるだけ正確に伝えたいと考え、それを具現化するための表現様式は、常に変化させてきました。
● 表現様式
このようにして、私の表現様式は、目下のところ、大きく分けて5つのカテゴリーに分類できるとおもわれます。
それらを、目次で表示しましたように、抽象および具象1-4としました。
具象1 人物の形を借りて、心象風景、思考なり想念なりを表現したもの。
具象2 自然にある対象を素直に写しながら、そこに感情移入している表現。
具象3 半具象半抽象的表現で、逸話や物語、詩、言葉あるいは記憶の端から来るイメージの世界を象徴的に表現。
具象4 少ない色数と簡潔な線によって自然の形態を記号的に扱うことで、あるイメージ、幼児期からのトラウマとそれにまつわる記憶を表現。
抽象 単純で抽象的な線や形、または色のみにおいて心の動きや思考を表現しようと試みたもの。
これらの様式は、年代順に変化しているわけではないため、年代順に全作品を見ると、年代の近い作品における関連性は見出しにくいときがあります。そのため、この5つの分類によって、制作年度順不同でくくることにより作品の体系化を試みました。
なお、作品一覧表にある色分けは、これらの分類に基づいています。